有機農業リサーチプロジェクト No.030

間司さん

金子 重実さん

有機栽培で水稲と雑穀の経営確立を追求

金子さんは若いころは養蚕と米を主体にしていたが、規模拡大を考える31歳のころ大病を煩い3年ほど治療にかかったことから、健康面を考えた農作物の栽培に関心を持つようになった。昭和59年に養蚕をやめ、手探りで自然有機栽培に取り組み、その頃、鹿児島県の精油会社向けゴマを作り始めている。
平成2年に、仲間3~4戸でアイガモ米にも挑戦し、加工会社を通じて販売した自然栽培アイガモ米が爆発的に売れた事から、平成4年に湯前町MOA自然農法研究会を設立し、米からアワやキビなどの雑穀にも栽培を広げて、本格的に有機栽培を開始した。
 平成11年には町から資材補助があり、17名の仲間で本格的なアイガモ米栽培を開始した。販売先も流通業者や加工業者を確保してきている。
 今年はアイガモの利用を止めたが、有機栽培に取り組む仲間は26名で40ha。そのうち11名(約20ha)が有機JASの認証を受けている。
 有機米の他にも、麦やゴマ、ナタネ、アワ、キビ、トウモロコシ、ハトムギなどの雑穀畑作栽培にも取り組んでいる。息子さんに経営は譲っておられるが、今年は永年続けてこられたグループの役員も譲られて、作物生産に没頭されるとのこと。農作物の栽培について話される姿は、本当に楽しげで、幅広い見識を見せられながらも今なお旺盛な興味をもって人の話を聞こうともされる、根っからの農業人である。

◆年間生産計画
年間生産計画 耕作している農地は水田200a、畑180a、果樹園45aで、水稲を180a、裸麦130a、もちきび50a、アワ50a、ゴマ60a、トウモロコシ15aのほか里芋、大根、白菜などの自家用野菜を10a、クリ25a、ユズ10a、ハウスブトウを10a栽培している。

<ほ場環境>
 ほ場の土質は、水田は壌土であるが畑は火山灰土、標高200mで球磨盆地の東端にあたる地域で寒暖の差は激しいが、霧は少ない地域である。

<土づくり>
 土作りに利用する堆肥は、酪農及び肥育牛農家から牛糞堆肥を入手し、自分の堆肥舎に持ち込んで米ヌカを混合して再発酵させたものを利用している。堆肥舎を造った頃は発酵させるのに苦労したが、今では土着菌が増殖しているため、新しい牛糞堆肥を持ち込んでもすぐに発酵始めるので2~3回切り返せば、完熟堆肥になる。

<施肥>
 堆肥を中心に発酵鶏糞と油粕を利用している。堆肥は、水稲の場合は2~3月に1~1.5t/10aの堆肥を入れて4~5cm程度に浅く耕耘しておき、荒代までに2回ほど浅く荒打ちする。植え付け前に油粕を40~60kg施し、荒代かき後15日くらいで植代をかき、1日おいて田植えを行う。
麦の場合は、11月に10a当たり1~1.5tの堆肥と発酵鶏糞80~120kg袋、油粕を40~60kg施す。

<種>
 水稲種子は3~4年に一度は更新のため購入しているが、麦、雑穀を含めて全て自家採種を原則としている。

<苗> 
水稲には、購入したフルイかけ山土に、くん炭を2~3割混ぜた床土を使用する。
育苗床は、水田を良くならしてマルチを敷き、その上に1箱当たり260粒程度播種し、たっぷり潅水した育苗箱を並べ、トンネルに育苗ビニールをかけて保温する。
発芽して1~1.5枚くらいから1日~2日に1回、育苗箱の縁いっぱいまで湛水し、溜まったら止水する要領で水管理を始める。
1週間くらいで草丈が3~4cm位になったら育苗ビニールを外し、本葉4~5枚くらいで、1株3~4本程度に田植えする。
 種子は、共同作業で温湯消毒を行う。
① 種もみは水洗いをして網袋に入れておく。
② 種もみ1㎏につき20ℓのお湯を用意する。100ℓであれば、一度に浸漬する種もみの量は5㎏前後。
③ 容器に62~63℃のお湯を必要量張り、温度調節用の湯(65℃)を用意し、これとは別の容器に冷却用の水を用意しておく。
④ 冷水の量は種もみ10 ㎏に対して150 ℓくらい。
⑤ 種もみ袋ごと湯に漬ける。種もみを入れると温度が下がるので、漬けた直後は十分に撹拌し、常に温度計で確認しながら60℃以下に下がる場合は、お湯を足して調節する。
⑥ 10 分浸漬後、お湯から引き上げ直ちに冷却用の容器に種もみを入れ、流水で冷やす。袋の内部に熱がこもらないように、十分にもみながら冷やす。
 ⑦ 冷えたら、そのまま浸水しておき、3~4日後に種子が鳩胸状態になったら、1昼夜ほど陰干しし、完全に水切りして播種する。

<雑草対策>
 水稲では、以前はアイガモを使っていたが、タヌキやイタチ、カラス等の被害が増えてきたので止めた。ジャンボタニシは、越冬するが裏作に麦を作ることもあり、増えなくてあてにならないところもあるので、研究する必要を感じている。
 ジャンボタニシがあてにならない所は、米ヌカペレット60~100kg/10aを植え付け直後に散布している。生の米ヌカを使うと、浮き上がり、風に吹かれて寄ったところに被害が出たりするので、ペレット製造機械を導入。製造作業を委託して、乾燥はハウスを利用している。
 今年からは苗の活着を待って歩行型の動力除草機も利用している。
 雑穀の除草が大変で、モアーや刈払機なども利用するが、手取りが大変である。特にキビなどは、ツユクサを除草しておかないとコンバインで収穫するさい、目詰まりしてロスが大きく出てしまうので収穫前の除草は、刈払機と手取りで入念に行う。

<病害虫対策>
 水稲の場合は、茎葉を堅くするため、たまに貝殻粉末(オウギ貝粉末)を浸水し、上澄みを散布することもあるが、基本的に何もしない。特に雑穀類は、これまで何かをした記憶は全くない。
 イノシシやアナグマ、鹿の被害が増えているので、これが問題である。

<流通・販売>
平成2年頃は、JAに出荷してもアイガモ米も自主流通米の特別栽培米としてしか扱えなかったため、鹿児島県のゴマ精油会社を通じて販売したところ、爆発的な人気が出て売れ始めた。その後、さらに扱ってくれる流通業者や加工業者を探して開拓してきた。
 平成15年からは、自分たちのグループ湯前町MOA自然農法研究会で探した販売先3社にJAを通して販売している。

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